大普賢岳〜行者還岳〜一ノ垰  

大峰奥駈道(4)

第四回目は和佐又ヒュッテから前回終点の大普賢岳へ登り返し、そこから行者還岳を経て一ノ垰(タワ)まで。鎖と梯子の連続する岩稜から、一転して苔むす原生林や美しい笹原を行く、厳しいが変化に富んだコースである。

【登 山 日】2004年9月25 日(土) 曇のち雨
【メンバー】日本山岳会関西支部:15名(L森沢義信)、(会員外)10名、計25名
【コースタイム】和佐又09:30…笙ノ窟10:20〜10:40…石ノ鼻11:00…大普賢岳(昼食)11:55〜12:35… 稚児泊13:35〜13:40…七曜岳14:05 …行者還宿15:25〜15:35…一の垰16:35…行者還トンネル東口17:50

ここ何日か秋雨前線の停滞で不安定な天候が続いていたが、マイクロバスが吉野に近づく頃から素晴らしい青空になった。和佐又ヒュッテ前の駐車場は人と車でごった返している。少し上の広場で森沢さんからコース説明を聞いて登山道に入る。ススキの原とミカエリソウの群落が出迎えてくれる。25人パーティの最後尾をゆっくり登るが、9月下旬と思えぬ暑さですぐに額に汗が滲んでくる。後から追いついてきた若い男性4人は、インターハイ県予選の準備だそうで地図を片手に標識を付けながら歩いている。  
笙ノ窟でちょっと長い休憩。窟の天井からの滴りは、渇いた喉にまさに甘露の味であった。和子が岩にしがみつくように咲いているダイモンジソウを見つけた。日本ヶ岳のコルへ登る岩場には、紫のリンドウや黄色のアキノキリンソウがたくさん咲いていた。
 うるさいほど短い鉄梯子が連続して出てくる。新しい鎖も多く、かえって煩雑な思いをしながら登る。
石ノ鼻の岩上からの眺めは、やや雲が多いのが残念だった。それでも小普賢岳、日本ヶ岳の稜線を見下ろし、胸の空くような爽快さを味わう。更に鉄梯子や金属製の階段を登り、小普賢岳へ登り口からいったん下る。コルから長いジグザグ道の登り返しになる。体調の悪い人が出て一緒に休んでいる横を、大勢のゼッケンを付けた高校生が挨拶しながら登っていく。顔中に汗を浮かべて苦しそうな表情の生徒に思わず「がんばれよ」と声をかけると「ありがとうございます」と元気な声が帰ってきた。山を愛する若者が、まだこんなに大勢いることを本当に嬉しく思う。
少し遅れて狭い大普賢岳頂上に着いた。山は秋の粧いを始めたばかりだが、真っ赤なナナカマドの実を前景にした稲村ヶ岳、大日岳から山上ヶ岳に続く稜線が美しい。これから向かう行者還岳は意外に低く見え、その上の弥山は中腹より上が雲に覆われている。昼食後のデザートには甘いブドウが出た。重い果物を担ぎあげてくれた山仲間に、全員感謝して頂いた。「さあ、ここからが今日の奥駈本番やぞ」との誰かの声に気を引き締めて午後の行動のスタートを切る。
急坂を下って絶壁上の笹原・水太覗に着く。高校生の集団は集合地点だったらしいここから引き返していった。弥勒岳はシャクナゲ林の山腹を巻いていく。内侍落とし、薩摩転びなどの鎖のついた急崖を下り、稚児泊の広場で小憩する。苔むした岩や木が点在する広場で、大木の下に靡き六十番の碑伝が沢山打ってあった。この頃から雲が厚くなってくる。国見岳、七ツ池を過ぎると靡き五十九番の七曜岳。狭い岩稜上の木の幹に碑伝が打ってあり、晴れていればさぞかし好展望が楽しめる筈の所だ。
少し下ると左に無双道への道を分ける。七曜岳からいったん100m近く下り、行者還岳に向けて再び高度を上げていく。苔むした倒木やびっしりキノコを付けた巨木が並ぶ、深山の趣きに富んだ風景の中を登って行く。行者還岳は時間の都合で登らずに通過。
危なっかしい長い木の梯子や鎖場を下って大きな岩の下に碑伝があるところに来る(行者宿址か?)。
 少し先に新しくなった行者還小屋があった。小屋の横で小憩しているうちに雨滴が落ちだし、次第に本降りの様相になった。全員急いで雨具をつけ、夕暮れのように薄暗くなった中を一ノ垰へ向かう。笹原の道にはすぐに水溜まりができ、ガスも漂う薄闇に白いキノコがぼんやりと浮かび上がる。この薄暗い樹林帯の小さいアップダウンは、足が疲れてきたのか結構長く感じた。最後に小灌木のブッシュを分けるように行くと、一ノ垰の避難小屋が見えた。今日最後の靡き・五七番一ノ多和である。
ここで奥駈道と分かれ、夕闇に追われるように論所ノ尾と呼ばれる尾根を下る。新しく開かれた道だが、笹原の中の急坂は滑りやすくて歩き難く、パーティの前後の間隔が次第に開いてしまう。ようやく天ヶ瀬への分岐に来て、すぐ前の人が直進したことに気付き大声で呼び返す。ラストの自分がこれではと思ったからか、元気を取り戻してトンネル東口で待つバスに向かう。トンネルの中で雨具を脱ぎ、バスに乗る。距離は短いが何度もの登降の繰り返しに奥駈の厳しさを痛感し、無事に山行を終えたことに満ち足りた思いで一杯だった。国道169号に出る頃には真っ暗になり、激しい雨が車窓を叩いていた。


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