103 三津河落山




103-A 如来月とナゴヤ岳

【登 山 日】2000年11月9日(木)曇一時晴
【メンバー】芳村嘉一郎、芳村和子
【コースタイム】 川上辻12:40…三津河落山とナゴヤ岳のコル13:05…如来月13:25〜13:30…コル13:35…ナゴヤ岳13:45〜13:50…川上辻14:00
「和州吉野郡群山記」の「大台山記」に…「前鬼山ヨリ大台山ヲ見ル真写」という図があり、円い山頂の巴ヶ岳を挟んで、左に秀ヶ岳、右に三途川落が共に富士山型に描かれている。面白いのは秀ヶ岳(日出ヶ岳)より三津河落山が高く描かれていることだ。また…『如来附(三途川落に添える小山なり。三途に附きしゆえゑ、如来附といふ。高山にあらず)三途川落、大台一の高山なり。北東の隅にして、その尾、伊勢大杉山に続く。紀ノ川・宮川・新宮川の水源なり。(三途川落に登れば渓筋三方に分かれたり。一方東は宮川に出、一方北西は紀ノ川に出、一方西南は大台に入りて新宮川に出る。…』という記述がある。ここでは、如来月が三津河落より低くなっている。現在の標高や山名と比べてみて面白く思った。 
日出ヶ岳から三津河落山に続く稜線が最初にドライブウエイに接するところにある川上辻は、かって名古屋峠と呼ばれていたようである。ここに筏場への歩道を示す道標があるが、昨年秋に来たときは入口が閉鎖されていた。今も東へ(巴岳の方)の登山道には「歩道ではありません。植生保護のため立ち入らないでください」の表示があり、鎖が張られている。反対のナゴヤ岳に向かうと一分も歩かないうちの分岐で同じ標識に出会った。鎖の先、ナゴヤ岳に続くらしい道の両側の木に赤布の目印があるのだが、この先に通れる登山道が出来ているのかと思って見送って進む。 山腹の右(東側)を捲きながら緩く下っていくと背負子が置いてあり、遙か下方で人声がする。真新しい補修の木道があったり、どうも今も筏場への歩道を整備中らしい。しばらく行っても登山道に出会わないので、道がヘアピンカーブして急に谷へ下り出す地点で左手の涸れ谷を登ることにする。乾いた岩が並んでいて、勾配はあるがあまり苦労せずに登る。
稜線が近づくと細い踏み跡があり、やがてはっきりした登山道に合流した。赤布や赤ビニールの標識もあり、正規のルートに出たことが分かる。ここはナゴヤ岳と三津河落山のコルに当たり、丈の低いミヤコザサの中に一筋の細い道が通じている。右にブナやトウヒの林の中を登り、次第にジグザグの道になると大きな岩が積み重なったように見える所に来る。
岩の左側を回り込むように登ると山頂だった。
「如来月」の古い石標と府県境界を示す石柱がある。新しい山名板は、如来月と三津河落山の二種類がいくつか。細いヒノキに囲まれて眺望は全くないが、静かな気持ちの良い頂上だ。三津河落は又の機会に残して元の道を下る。
木の間越しに、正面にナゴヤ岳、左手遠くに日出ヶ岳を見ながら一気にコルに下る。日出ヶ岳頂上のコンクリート展望台とそれに続く木道は、ここから見ても醜悪で「秀ヶ岳」の名には値しない。単に日の出を見る山になってしまったのだろうか。コルの周囲はシャクナゲの林で、それを過ぎるとトウヒ林の中を登って峠のような所に出る。
 
ナゴヤ岳の頂上は右へ折れてすぐの所にある。ここにも古い「名古屋岳」の石標と石柱があり、静かで落ち着いた感じの山頂だった。下山途中、目の下を駆け抜ける母子らしいシカにも出会い、大台の自然はまだまだ健在と心強かった。
*少し古い記録だが、この頃は二人とも元気なもので午前中に東大台周遊を終え、午後に如来月に登ってきた。


103-B 三津河落山〜大和岳

【登 山 日】2004年7月21日(水) 曇
【メンバー】芳村嘉一郎、芳村和子
【コースタイム】川上辻10:10…名古屋岳10:23〜10:30…如来月11:00〜11:05…三津河落山11:15〜11:20…日本鼻11:30〜11:35…大和岳11:42〜11:50…三津川落山12:12〜12:23…名古屋岳12:50〜13:00…川上辻13:17
*三津河落山は、一般に如来月から大和岳にかけてのピークの総称とされるが、古くからそれぞれの峰は別の名前で呼ばれていたようである。
「和州吉野郡群山記」に国見が岳<現在の大和岳・名を挙げるだけで説明なし> 日本ケはな<鼻>(これは低き山なり。この山中の水、日本ケ谷へ流るるなり)<如来附、三津河落については前項102-Aで既述した>
「世界の名山・大臺ヶ原山」 (大正十二年・大台教会刊)に次の記述がある。
 中の谷川に沿ふて遡れば三津川落に至る、即ち三国三水の分嶺なり、此地隆起の度日出ケ嶽に譲らず、展望の快亦殆んど相亜ぐ、唯さんづのかうちてふ称呼の、さながら、黄泉の境に入るが如き心地するを厭ふべしとするのみ、昔はみつかはおちとこそ云ひけん、知らす何処のえせものぞ誤り初めしにや。…
 ○山戸谿  三津川落を去りて、約半里ばかりの処に、また隆起せる高地あり、山戸岳と云ふ、其南谿より流出る川は即ち山戸川にして、此川に沿へる一帯の谿谷を山戸谿と云ふ、山戸川と中ノ川の間なる山の背を日本鼻と云へど其義詳かならず、或は山戸が鼻にもや、此山わたり地相平達にして能く大臺の称呼に合ふ、随ひて水声緩慢、頗る大陸的趣致ありなど云はることも、偶然にあらず、況んや老樹欝葱として、四面を包み、風光最も閑寂を極むるをや。 
先週に続いて大台に涼を求める。川上辻から筏場へ下る道を行き、少し先で笹原の中に続く踏み跡に入る。ミヤコザサのなだらかな斜面を登り、尾根に出ると右手に下る道を分けて、数個の石灰岩塊が散らばる名古屋岳の頂上である。今日は生憎の曇り空だが、ドライブウェイを走る車も少なく、静かな山が楽しめそうだ。分岐に引き返すのが正しいルートだろうが、痩せ尾根にも古い踏み跡があり、降り口にテープ標識もあったのでこの道を試してみる。GPSのルートも木の間から見える如来月を指しているので安心していたが、踏み跡は先日同様すぐミヤコザサの中に消えてしまった。数頭のシカの群れが目の下の斜面を横切り、丈の低い笹を漕いでいると何処からか「ピーッ」と甲高い警戒音が聞こえる。
右手に正しい道がある筈なので出来る限りその方向を目指して行くと、疎らな林の広い鞍部にでた。4年前の秋に、東側から涸れ沢をつめて確かこの辺りで縦走路に出た記憶がある。見回すと立木に赤テープ標識があり、正しい道に出たと分かる。しかし、ここからも笹原の中に道が何筋かあり、少ないテープ標識を探すのも面倒なので適当に高みに見える岩塊を目指して登る。右側からの踏み跡が合流する見覚えのある大岩の上が、如来月(1654m)の頂上だった。前にたくさんあった山名板は一枚も見当たらず、石の山名標と境界見出標だけがある。
 三津河落山へはモミ、トウヒ、ブナ、シャクナゲなどの林を下る。ナツツバキが白い花を咲かせていた。倒木や枯れ木が多く少し荒れた感じだが、要所にテープが残っていて道ははっきりしている。(写真は三津河落より如来月)
大きな倒木を潜って林を抜けると、広々としたミヤコザサの原っぱに飛び出した。三津河落山の石標があるこのピークは、最高点の如来月より少し低い(Ca1630m)が、Y字型に尾根の別れる実際の分水嶺である。Y字の下棒に当たる南から来た私たちが目指す日本鼻、大和岳は左前方に伸びやかに拡がっている。右前方には緩やかに緑の尾根が下り、その上に一筋の道が大台辻へ続いている。下界はうだる暑さというのに、ここは風が強く寒いほどの別天地だ。残念ながら、どんよりした黒い雲に台高山脈の北方の峰々は隠されているが、想像以上の見事な絶景に「いいところやな…」「来て良かったね」と、年来の想いが叶って二人とも大満足だった。
笹原の中の水平な道をしばらく歩くと、真新しい農林水産省雨量測候局を過ぎ、左手の丘が日本鼻。ここも見晴らしのよい草地で、奥の林との境に古い雨量測候所らしい建物があった。
少し下ってオオイタヤメイゲツの林を抜け、ちょっと登り返すと大きな岩のある大和岳である。
 経ヶ岳に続く稜線の上に大峰山脈がぼんやり浮かんでいた。西の小ピークにも尾根は続いていて、そちらの方が高そうにも見えるが、今日はここまでとして赤い字の大きな山名板をバックに写真を撮って引き返す。
 空模様が少し怪しくなってきたので、雨に遇わないうちにと元の道を帰る。風を避けて、三津河落山を少し下りたところで昼食を済ませる。如来月からもテープを拾いながら帰ったので早かった。往路と同じ林の中で、一頭のシカが円らな目でじっとこちらを見ていた。彼らのためにも、この大台の美しい自然がいつまでも残されていくことを願って止まない。

103-C 日出ヶ岳〜巴岳
【登 山 日】2004年7月15日(木) 晴      【メンバー】芳村嘉一郎、芳村和子
【コースタイム】大台ヶ原駐車場10:00…日出ヶ岳10:35〜10:50…巴岳11:10…引き返し点12:15…稜線に帰る13:20〜13:40(昼食)…巴岳13:50…川上辻14:00…駐車場14:30


燃えるような暑さの日が続く。涼を求めて、川上辻から大和岳を往復する予定で大台ヶ原に向かう。スカイラインの伯母ヶ峰近くで車を停めて、間近に見える大普賢岳をカメラに収める。ここでせっかくだから日出ヶ岳にも登って、巴岳経由で川上辻にでようと意見が一致。駐車場に車を入れて、ビジターセンター横から遊歩道に入る。 
真新しいシカ除け防護柵には「平成16年6月」の日付で森林再生に向けた実験的な取り組みをしているという環境省の掲示があった。日出ヶ岳への階段道が始まる地点でも柵を設置中で、金属製のハシゴで仮設歩道を登る。おかげで一汗かいたが、いつもより短い時間で日出ヶ岳展望台に着いた。駐車場には結構、車があったが、山頂は食事中のペアと途中で追い抜いた一組、 そして私たちと6人だけで静かなものだ。今日もアカネトンボが舞っている。展望台に登って周囲の展望を楽しむが、雲が多く思ったより遠望は良くない。しかし、三津河落山への稜線はくっきりと緑鮮やかだ。
山頂台地の西端、遭難碑のあるところから縦走路に入る。 
目の下を5頭のシカが駆け抜けていった。丈の低いミヤコザサと立ち枯れたトウヒの原に下り、シカ除けのネット沿いに、バイケイソウの大群落の中を少し登る。ところどころ石灰岩が露出している尾根を下り、ネットを離れて右に登り返すと巴岳の石標があった。ここまで赤い境界標はあったがテープなどは全くなく、それでも日出ヶ岳からルートを探りながらにしてはいいペースで来ている。…と甘く考えた訳でもないが大失敗。正しいルートは殆ど直角の感じで左(西)に折れるのだが、はっきりした踏み跡につられて直進してしまった。
密生したシャクナゲの幹を掴んで踏み跡を拾いながら、尾根をどんどん下る。「ちょっと道が悪すぎない?」と和子が言ったが、「最近通る人が少ないからこんなもんやろう」と構わず行くうちに、踏み跡は錯綜した獣道に変わり、最後は滑り落ちそうな傾斜で沢に下りている。足元から小石が落ちる斜面を、互いに注意しあいながら苦労してトラバース気味に下る。やっと沢に降り立ち、冷たい流れで顔を洗って一休みする。地図を確かめると、どうも尾根を間違えて西ノ谷に向かう支流の一つにいるようだ。あとでGPSトラックで見ると標高差250mも下ってしまっていた。
滑りやすい大岩を伝って少し下るが、沢が屈曲した所で引き返すことにする。対岸に渡って向かい側の山腹に取り付き、急斜面をまたシャクナゲの幹を掴みながら登り返す。それにしても花の時期には凄い眺めだろう。何度か休憩してシャクナゲの密林を抜けると、青空の下に拡がるミヤコザサの斜面になり、やがてぽっかりと稜線に飛び出した。緑の笹原の中に大きな白い石灰岩塊がある小ピークで、驚いたことにはっきりした道がついている。巴岳と川上辻のちょうど中間地点らしく、シカ除けのネットもある。巴岳から2時間程のアルバイトで私が少し消耗したので、今日の行動は川上辻までとして、ここで遅い昼食を取る。
食後、稜線の道を巴岳まで辿ってみる。笹原の中のしっかりした道は、なだらかな登りの最後が少し不明瞭ながら、10分ほどであっけなく元の山頂に着いた。先にこちら側の踏み跡を試してみたら良かったのに後の祭り。すぐ食事場所に引き返して川上辻へ向かう間で、大量の黒色の脱糞を見た。クマのものかも知れないとぎょっとする。川上辻からは遊歩道を通って駐車場に帰る。ときどき聞こえる車の音さえ気にしなければ、すぐ近くをドライブウェイが走っているとは思えない、山深い感じのいい道だ。車道はカンカン照りだろうが、こちらは殆ど上り下りのない緑の木陰がずっと続き、東ノ川側からは冷たい風がたえず吹き上げてくる。暑い下界に帰りたくない思いで、ゆっくりゆっくり歩いて大台教会の下に出て、今日の反省点の多い山歩きを終わった。

 「奈良100遊山プラス10」    ペンギン夫婦お山歩日記
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