54 子ノ泊山(907m)





(ねのとまりやま)熊野市と紀宝町の境にある三重県最南端の山。山名の由来としては「熊野灘から新宮に向かう舟が、子(北)の方角にあるこの山を目印にしたことによる。    

1996年5月11日、千日町ハイキング同好会月例会で「干支の山」へ一泊登山した。169号線で紀伊半島を縦断、しばらく海岸を走って新宮を過ぎ、再び熊野川の支流沿いに遡って目指す山へ。桐原の集落から舗装林道となり、中の谷橋を渡ったところの路側に駐車する。いきなり雑木林の中の厳しい直登が始まる。地図の等高線から覚悟はできていたので、焦らずに胸を突くような急坂をゆっくりと登る。炭焼き窯の跡を過ぎ、さらに踏み跡程度の細い道を行く。シイの落ち葉が敷き積められ、滑りやすく歩き辛い。30分ほど稜線に出てやや傾斜が緩む。むせるような若葉の中にコメツツジの柔らかなピンク色が優しく感じられる。
ブナやケヤキの大木はしっかりと根を拡げて、たくましい生命力を主張している。ふと見上げた頭上に薄紅色のシヤクナゲの花が夢のように浮かんでいた。   稜線へ出たものの相変わらず雑木林の中で視界は開けず、少しなだらかな所があるかと思うと急坂が現れたり、結構しんどい山だ。左手からの道を合わせる分岐からは道らしくなり、かなり歩きやすくなる。
さらに急坂を登っていい加減うんざりする頃、林を抜けて小広い台地に飛び出すと一等三角点のある頂上だった。
 立派な山名板に「十二年後にまた会いましょう。紀宝町」とあり、スタンプ台や記名帳を入れたポストも設けられている。正月頃はさぞかし賑やかだったろうと思わせるが、今日は我々だけの静かな山頂だった。東から南にかけて大きく熊野灘が拡がり、北から西には大峰、熊野の山並みと360度の展望台なのだが、残念ながら薄墨を流したような曇り空の下で、すぐ近くの山が頂を見せるだけ。海のほうも辛うじて海岸線が見分けられる程度だった。
下山は、よくこんな所を登ってきたと我ながら感心するほどの急坂を頑張り、分岐からは右にとり直降下すると最後に金属の梯子があり、朝の林道の上部へ飛び出した。駐車スペースもあり指導標も立派で、どうも最近はこちらの方が登山口として定着しているらしい。のんびりと林道を降りていくと、右手下にU字形に大きく中ノ谷が開けた。
 まだ時間があるので、「落打ノ滝」の道標に誘われて谷に降りる。苔むした石を飛んだり、流れを渡ったり、けっこう沢歩きの気分を味わいながら登ること300m、谷筋を曲がると目の前に大きな飛瀑が現れた。
 期待していなかっただけにその豪壮さに度肝を抜かれた。高さも幅も十分に大杉や、赤目の滝に匹敵する美しい姿の滝である。しばらくは全員、言葉もなく流れに見入り、登頂の満足にさらに感激を加えて勝浦温泉の宿に向かった。
<コースタイム>千日町発5:35…9:48仮登山口9:52…稜線に出る10:30…分岐11:05…12:10子ノ泊山頂(昼食)13:15…14:20林道登山口14:45…15:30落打ノ滝15:40…登山口発15:55

私の関西百山
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