51 池木屋山(1,396m)





(いけこややま)奈良県吉野郡川上村と三重県松阪市、多気郡宮川村にまたがる。台高山脈のほぼ中央にあり、ブナの原生林を初め豊かな自然が残り、深山の趣が深い。シャクナゲやサラサドウダンも多い山である。山頂近くの木立の中に小さな木屋池がある。山の名はこの池から来ているとも、池の畔に小屋があったからとも聞くが定かでない。 奈良側からは、明神平より千石山、赤ー山を経て6時間を要する。『大和青垣の山々(1973奈良山岳会編)』には「とにかく大和の山で最も登りにくいのがこの池小屋山なのである」と記されている。他に川上村入之波(しおのは)から北股川を遡行するルートがあると聞く。私たちは2003年春、三重県側の奥香肌峡宮ノ谷から入山した。それでも標高差580m、休憩を含めて4時間の登高を強いられた。

2003年 4月27日、長い間、私たちの憧れだったこの山に向かった。位置的な制約に加え、年齢的な衰えが目立つ私たちの体力で、厳しいといわれるこの山に登れるだろうか。8時間近い長時間の山行は2年前秋の霞沢岳以来であり、しかも和子は昨年、一度も山らしい山に登っていない。不安でもあるが「まだ今なら登れる」と、思い切って出掛けることにした。
 宮ノ谷は奇岩や飛瀑の連なる美しい渓谷である。林道終点に車を置き、清冽な宮ノ谷の流れを見下ろしながら遊歩道を歩く。犬跳び、鷲岩、六曲屏風岩などの奇岩や蛇滝など大小の滝を見ながら行く道は、要所に赤い手摺りの鉄橋や階段が設けられよく整備されている。
 水越谷との分岐から道は少し急になり、右岸をへつり気味に行くと、緑の中に長い白布を掛けたような高滝が次第に近づいてくる。 
高滝(←)は轟々と音を立てて落ちる落差50mの大滝で、堂々とした姿にしばし見惚れてしまう。
 滝の下を飛び石伝いに対岸に渡ると「この先、猫滝まで危険。ロープに頼らないこと」の標識があったが、岩角や木の幹など手掛かりは多く、ロープをあてにする程のこともない。大きくジグザグをきるようにして、ぐんぐん高度を上げる。水しぶきの虹を掛ける滝のすぐ横のトラバースは、水音でお互いの声も聞こえないほどである。トラバース終わり近く、岩壁に埋め込まれたように小さなお地蔵さんの祠があった。
 猫滝の滝壺を見下ろしながら絶壁を登る辺りが一番の危険地帯だろうか。垂直に近い角度でマダラロープがかかっている。
 登り終えて再び明るい河原に降りてしばらく進み、石を跳んで対岸に渡る。対岸にかかる見事なドッサリ滝を見て渡り返し、最後に急坂を登って二つの谷の合流点である小広い河原に降りる。
木の枝に「奥の出合」「池木屋山へ約2時間」と書いた札が下がっている。まだ行程の半分を来ただけだ。ここからが正念場と気持ちを引き締めて飛び石伝いに谷を渡り、谷沿い道に入る。
 「最後の水場」の標識で谷を離れると、いよいよ中尾根の本格的な登りになる。ナの若葉の中にアカヤシオの花が美しく浮かび上がっている。急傾斜の木の根道を直登する。嫌になるほど登って「トウフ岩」の標識がある四角い大岩の前に出る。
 硬いはずの石と柔らかい名前の対比が面白い。幅広い尾根に出て落花盛んなミツバツツジやコブシの花を見ながら登る。コウヤマキ、ヒメシャラ、ブナなどの大木が多い。
正午を過ぎたが登りはますます急で、目指す池木屋山はどの辺りか見当もつかない。降りてきた単独行の男性が「あと40分ほどですよ」と励ましてくれた。やがて低いヒメザサの原になり、背後の迷岳が次第にせり上がって来た。更に登ると賑やかな人声が聞こえ、道の真ん中に三角点のある山頂に着いた。出合から1時間40分、まずまずのペースだ。 山頂は笹原とブナの疎林に囲まれ、大熊谷の頭、迷岳、白倉山、古ヶ丸山などが展望された。腰を下ろして腹ごしらえをする。山頂に先着していた10数人の大パーティが大黒尾根を下って行ったあと、山頂は朝、林道終点で一緒だった女性二人と私たちだけになった。お互いに写真を撮りあった後、先に同じ道を下山する。笹原の下りは登りに思ったよりも急だった。出合でボトルのコーヒーを飲み一休みの後、無理をせずゆっくり下る。
猫滝の滝壺を見下ろす絶壁で、和子が「登りは長い捲き道を来たが、降りられそう」というので、ロープの助けも借りて垂直に近いクライミングダウン。 遊歩道に入ってからの1時間が長かった。梯子や階段に付けられた数字がどんどん減って行くのを楽しみに歩く。午後の谷間は早くも陽が陰ってきたので、帰りにゆっくりと思っていた鷲岩や犬跳びも見る余裕がなかった。林道脇にはまだ何台か残っているところを見ると、今日はかなりの車が入ったらしい。しかし、山で出会ったのは大部隊を除くと数パーティ、10人ほどだった。帰りの道も思ったより空いていて、空に明るさが残っている間に家に帰れた。久しぶりの厳しい山行だったが、それだけに登り終えた後の満足感も大きく、二人とも大満悦で祝杯を挙げた。

私の関西百山
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