花と雨の四姑娘山トレッキング

1.登山基地・日隆へ



左端より四、三、二、大姑娘山
中国四川省にあるスウクウニャンシャン。四姉妹になぞらえられる四峰のうち、末娘は6250mで最も背が高く手が出ないが、長姉のタークウニャンシャンは技術的な難しさのない5025mで、しかも頂上への道はブルーポピーやエーデルワイスを始め、色とりどりの花の乱れ咲く雲上の楽園という。言語上の制約もあって二人だけでは無理なので、アルパイン・ツァー・サービス社のグループツァーに参加して、この魅力的な山域に向かうことになった。

出 発 7月22日(日)晴 成都へ
メンバー全員が集結するのは香港である。徳島から参加のH、Tさんと私たち2人が朝、関空を発ち、香港国際空港で成田からの13人と海輪、伊藤両ツアーリーダー(以後TL)、福岡からのTさんを待ち、全員が顔を合わせたのは午後もかなり遅くなっていた。20名のうち男性は海輪リーダーを含め6名、14名が女性である。どうも私が最年長らしい。皆さん、経験豊富な猛者揃いであることは、日を追うにつれて分かってくる。
 夜の成都(チェンドゥ)に着き、バスで昨年開通した高速道路をホテルに向かう。2000年の歴史を持つ中国第8番目の大都市は、予想以上に現代的で、コンピュータ、エアコン、製薬会社が多く、夜も人通りが絶えない。ホテルも立派なシティホテルで設備も行き届いていた。


不安のアプローチ 7月23日(月)曇 成都〜臥龍

先日の大雨で土砂崩れがあり、通常なら6時間で行ける臥龍(ウォロン)まで倍近くかかるかも知れないと、朝食の弁当持参で6時に出発。バスには大学で日本語を専攻している魏(ウェイ)、房(ファン)の女子大生二人と通訳の牟(ム)さんが乗り込んだ。成都は一年中、雨の多い町で、「たまに陽が射すと驚いた犬が吠える」というほどだそうだ。今日も今にも降りそうにどんより曇っている。市内はもちろん郊外でも、至る所で大きなビルや道路が建設中で、解放後の活気に溢れている。

右側通行の片道3車線、制限時速120キロの高速道路を1時間ほど走って都江堰市に着き、ホテルで小型バス3台に乗り換える。
 ところが走り出してすぐ検問所があり、警官にストップを命じられた。
長い車の列ができている。地元車以外の観光客は通行させないらしい。押し問答の末、あえなくUターン。
 帰りに分かったが、この先のダム工事現場で平行した別の道があり、そのトンネル内の事故処理を見せないための処置だったようだ。
ホテルに帰り、海輪TLの機転で路線バスをチャーターして再出発。こんな所はツァーならではの強さだ。幅広い河に沿って行く。本来の道は河の右岸だが、左岸のガタガタの未舗装路を土埃を巻き上げて走る。河は流れが激しく、何カ所もダムがある。道に大きな岩が落ちているところも数カ所あった。二つ目の検問も無事突破、映秀という町で橋を渡り、本来の道に出る。
大きなレストランで昼食。10皿近くも料理が出る。
 四川料理の特徴は(牟さんによると)
「辛い、熱い、痺れる?」だそうだが、ニンニク入りの焼きそばは確かに辛いが冷たかった。
 中国の人は、健康に悪いので冷たいものは飲まないと聞いていたが、幸いビールもよく冷えていて旨かった。
昼食後は、だんだん農村の雰囲気になった道を走る。キャベツとトウモロコシの畑の中に、レンガ作りの家が点在している。養蜂の箱の横で、パラソルを立ててハチミツを売っている。
 予定より早く、14時過ぎ臥龍(ウォロン)のロッジに入る。安ホテル並の設備で、心配していたシャワーのお湯もちゃんと出た。夕食は昼と同じ形式の中華で、ビールも1テーブルに3本。追加は1瓶10元(150円)である。

あこがれのブルーポピー 7月24日(火)臥龍〜日隆

バスの準備がなかなかできず、9時半頃にやっと出発。当地名産のキャベツ畑の中、片道一車線の道を走る。ときどきキャベツを満載したトラックとすれ違う。岷江(ミンコウ)の源流・皮条河沿いの道は次第にカーブが多くなり、ときどき大きな石が転がっている。両側は切り立った断崖で、岩と松の配置が絶妙で水墨画の趣である。ところどころ大きな滝が懸かっている。
 何度か橋を渡り、次第に高山の雰囲気に代わる。ガードレールはなく、路端を示す赤白模様のブロックが間隔を置いて並ぶだけだが、幅の広い立派な舗装路が草原の中に伸びている。
森林限界を過ぎた3100m地点でバスを降り、草原のお花畑に入る。
 フウロ、ハクサンチドリ、オタカラコウ、オドリコソウ、バイケイソウなど、日本の高山でお馴染みの花に似たものが多いが、すべて大型で、足の踏み場もないほど咲き乱れている。
 ゆっくり写真を撮り、バスに帰る。
眼下に雄大な高原風景が拡がってくる。緑の中に黒いヤクの群が散らばり草をはんでいる。ところどころに送電線の鉄塔が立っている。近くに崩れた煉瓦の残骸があるのは、飯場の名残だろうか。
 青空が拡がって来て、行く手に土色と緑の山肌がくっきりと見えてきた。どこか薬師岳あたりの景色に似ている。送電線は、まっすぐその峠を越えている。峠の下、3800m地点で再びバスを降りる。
道脇の岩屑の中に赤いケシ、続いて青いケシ、黄色いケシ…すべてブルーポピーと呼ばれているが、正しくはメコノプシス属で、その後に、赤ならブケニヤ、青はホリドラ、黄はインテグリフォリアという種名がつく。
 葉や茎は刺々しいが、高山の空気の中にすっくと立つ姿は貴婦人の趣がある。もちろん先ほどから見てきた花や、シオガマ、キンポウゲ、サクラソウ、シシウドに似た花も一面に咲いている。
 その背後、遠くの青い空に四姑娘山群が浮かんでいる。地上にこんな美しい場所があったとは…去りがたい思いを断ち切るようにしてバスに帰る。
12時半、標識と古い祠がある巴郎山峠を越える。標高約4300mである。少しだけ雪が残っていた。
 緑の草原を蛇行しながら下る。行く手に美しい三角形の山が見えてくる。
 やがて目の下に日隆(リーロン)の町が見えてきた。数年前までは山中の寒村だったと聞くが、今は数階建ての堂々としたホテルや店舗が道の両側に押し並び、さらに各所でビルの建築が続いている。
13時20分、宿舎に着く。かっての招待所(後で見学したが、ルクラのロッジよりひどいものだった)の前にある、その名も「四姑娘山酒店」(酒店はホテルの意)。楊(ヨウ)の白い綿毛が舞う中庭を囲むように、平屋の棟が並んでいる。
 民族衣装を付けた娘さんが首に歓迎のハーター(カタ、絹のスカーフ)をかけてくれ、チンクー酒で歓迎してくれた。TLから高山病についての注意があり、その後、町の散歩へ出る。
 夜は餐庁(レストラン)で四川料理。前の通りには露天の串焼き屋などがでて、夜遅くまで人声が絶えなかった。

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