二度目のキナバル山(2)




1月21日。
 午前1時40分起床。2時、軽い朝食をとり2時30分、出発。外に出ると無風快晴で満天の星空だ。気温9度と予想以上に高いので、10分程歩いた上の小屋を過ぎたところで上着を脱いだ。狭い谷間の道にヘッドライトで照らし出された急勾配の階段が続く。今日も体調が悪く、いつもより高度の影響を強く感じる。ときどき足元がふらついてバランスを崩し、後ろの人に支えられる始末。富士山より低いこの高度では初めての経験である。リーダーとしての責任がなければ、おそらく途中で下山していたことだろう。
それでも二度目だけに距離と時間の目安がつき、時間さえかければ登れると思うとそれほど不安は感じなかった。昨夜の雨で岩の間を水が流れ落ちライトに光る。いくつものグループに先を譲りながら高度をあげて、急斜面に太いロープの下がる岩場に来た。前回はここで風が強く、ロープが波打っていたことを思い出す。あのときに比べると穏やかないい天気だ。振り返ると下界の街の灯り、仰げば星々のきらめきが夢の様に美しい。
 2時間近くかかってサヤッサヤッ小屋(3.668m)に着いた。IDカードのチェックを受けて、登行を続ける。頂上に向かう先行の人のヘッドライトが連なって見える。岩の間に蹲る黒い人影を二つ、三つ見送って、ゆっくりゆっくり高度を上げて頂上部のプラトゥ(頂上高原)に来る。
広大な灰色の花崗岩が緩やかに拡がる様子は、地質こそ違え富士山のコノシロ池辺りの地形−富士宮頂上を過ぎて左へしばらく平地を行き、右に向けて回りこんだあと剣ヶ峰への最後の急登になる−に似ている。
 登山口から8q地点、すでに高度は4000mである。東の空が明るんできた。頂上でのご来光に間に合うことができず、元気な人達には申し訳なく思った。いつの間にかランプの明かりが要らなくなっていた。8.5qの標識まで来たとき、遂にアグリーシスターズの方角に太陽が登ってきた。
頂上で日の出を迎えた人が次々と降りてくる。昨日から顔馴染みになった若者が「頂上は寒かったです。ちょうどいいタイミングですよ」と慰めてくれた。確かに頂上の人影は少なくなり、写真を撮るには都合がいいだろう。

大石の積み重なった急勾配を、何度か立ち止まって息を整えながら登る。左手に影富士ならぬ影キナバルが、くっきりと浮かび上がっていた。
6時45分、ロウズピーク頂上に立つ。やっと登らせて貰ったという感じの4,095mである。二つの標識、緑色のものは標高を記した山名板。黒色のものはこの山の初登頂者、現地人のグンディン・ラガダンの栄誉を称えたものである。次々と仲間達が登ってきて写真を撮り合い、最後にガイドに全員での記念写真のシャッターを押して貰った。
 会としても個人としても、この山に登るためにトレーニングを重ねてきただけに、みんなの顔は大きな満足で輝いていた。見渡すと北側にヴィクトリアなどの岩峰、西に光る海面、目の前にセント・ジョンズ・ピーク、背後にロウズ・ガリーと、ぐるり360度の大展望である。山頂滞在20分、ゆっくり景色を眺めて下山する。
様々な思いを胸にキナバルサウス(3921m)の彼方に拡がる雲海を見ながら、白いロープに沿って下っていく。関空から一緒だったM旅行ツァー一行が長い列を作って登ってきた。
 ラバンラタでもう一泊するという贅沢な日程という。私たちは今日はコタキナバル泊まり、午後には登山口まで降りなければならない。サヤッサヤッ小屋でIDカードの確認を受ける。登山者の安全のためにノートに記した登りと下りの登山者番号を照合する。仕事を終えた「パークレンジャー」が交代のために一緒に下る。最後尾の私に色々と話しかけてきたが、日本の富士山のことをよく知っているのに驚いた。
ラバンラタ小屋で荷物整理のために長めの休憩をとり、出発は11時前になる。下りとはいえ、ここからが6q近くにわたる長丁場である。
 小屋でパックしてもらったランチをラヤンラヤン小屋の前で拡げる。食べたあとのゴミはグループごとのガイドやポーターが全て持ち帰る。
 この先も多めに休憩をとりながら、ゆっくりゆっくり時間をかけて下る。幸い足の痛みもなく、登りに比べるとずっと楽だった。午後になると雲が沸いてきてドンキーイヤーズを隠したが雨にはならず、予定よりかなり遅れたものの無事に登山口に下山した。
登頂証明書の発行ナンバーを前回(2005年1月23日)と比べて見ると、この二年間に約6万人が登頂していることが分かる。これは決して少ない数字ではない(2005年環境省発表によると富士山の年間登頂者は約20万人)。多くの関係者の努力で世界遺産にふさわしい美しい自然環境が残されていることに、改めてうらやましく、また学ぶべきことが多いと思った。
 また、僅か2年前の前回の登山にくらべて、自分の体力がこれほど減退している事実に気付き愕然とした。加齢による体力の衰えは如何ともし難いが、ずっと高齢でも本格的な登山を続けておられる方もたくさんおられるのだから、結局は自分の日頃の精進が足りなかったという一言に尽きる。
 ともあれ、メンバー全員が無事に登頂し下山できたことで、リーダーとしての責任をひとまず果たすことができた。肩の荷が下りた思いで、専用バスに揺られてコタキナバルに向かった。
<コースタイム>
ラバンラタ小屋02:23…サヤッサヤッ小屋04:20~04:27…8q道標06:01~06:10…ロウズ・ピーク06:45~07:05…サヤッサヤッ小屋08:13~08:35…ラバンラタ小屋09:55~10:43…第5シェルター11:45~12:10(昼食)…ラヤンラヤン12:50…第3シェルター14:05~14:12…第1シェルター14:50~15:00…登山口15:15

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